不快な音を“音”で包み込む?ストレスオフな空間作りのアイデア

この記事をお読みになる前に、ちょっと耳をすませてみてください。周りからどんな音が聴こえていますか? 意識しはじめると耳について離れないその音。目からウロコの方法で、驚くほど気にならなくなる方法をご紹介します。

■ストレスになる聴覚環境は、意外にも……?

どんなに静かなようでも、空調や、自分自身が動くことで出る衣擦れなど、常に人は何かしらの音に囲まれて生活しています。上階に住む子どもたちが走り回る音や、電車内でイヤホンから漏れてくる大音量の音楽など、時にはそんな不快な音がストレスになってしまうことも。「静かなのが一番!」、そう思うこともあるでしょう。

しかし、こんなデータがあります。自然音のハイレゾリューション音源で心地のいい空間を生み出す「KooNe(クーネ)」を提供している(株)JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント エンタテインメント・ラボが行った実験によると、「精神負荷の強い百マス計算実施時」「音のない安静な状態」「ハイレゾが流れる音のある空間」で被験者29名の心拍数およびLF(交感神経)/HF(副交感神経)への影響を比較したところ、以下のような結果となりました。

自律神経活動評価

心拍数は、安静時よりもハイレゾ時に有意に低下。自律神経機能のバランスも同様で、ハイレゾ時の方がHF、すなわち副交感神経優位という典型的なリラックス傾向を示しました。意外なことに、ハイレゾが流れる音のある環境が最も精神が安定し、音のない安静時よりもリラックス状態をもたらすことがわかったのです[1]。

■音を音で包み込むマスキング効果

部屋の遥か上空を通過する飛行機の音でテレビの音が掻き消されてしまったり、逆にテレビのスイッチをオフにしたら、それまで気づかなかった冷蔵のラジエーターの音が聞こえ出したり。こんな風に、周波数、音の大きさ、2つの音の時間的要素などで音が聞こえにくくなる、完全に聞こえなくなる現象を「マスキング」と言います[2]。風邪を引いたときに使うマスク(=覆い隠す)と同じ、音で音を包み込んでしまうイメージですね。2つの音の周波数が近いほどその効果が高いといわれています。

このマスキングも音で空間環境を整える手段の一つですが、これまで例に挙げたような隣人の生活音や飛行機のジェット音など、その人にとって不快と感じる音同士ではかえってストレスになってしまいます。そこで心地いい音環境作りに使えるのが、自然音のハイレゾ音源を活用したマスキングの手法なのです。

車の騒音のピークは1000Hz付近で、樹木の葉の擦れあう自然音は100~1000Hzだそう[3]。音が気になったら、逃げたり耳を塞ぐのではなく、リラックス状態をもらたす高周波を含む自然音で包み込んでみる。ストレスを遠ざけるのではなく、マネジメントするストレスオフの考え方に通じるアイデアです。

【参考文献】
[1]監修:梅田 智広 医学博士/奈良女子大学 社会連携センター 特任准教授(現:奈良県立医科大学 産学官連携推進センター教授・MBT研究所教授)水木さとみ 医学博士・心理カウンセラー
[2]音の世界の心理学 重野純 ナカニシヤ出版(2003)
[3]樹木葉擦れ音の物理特性 小松正史, 加藤徹, 桑野園子, 難波精一郎, 近藤明, 井上義雄 ,山口克人 騒音制御:Vol.24,No.4, pp.268-276(2000)

取材・執筆:オフラボ
監修:JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント エンタテインメント・ラボ

クーネ

"株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント エンタテインメント・ラボ
2012年、音のプロフェッショナルであるビクターエンタテインメントが、メンタルケアや生産性向上を目指して開発した空間音響デザインサービスが「KooNe(クーネ)」。豊かな自然音を再現する「ハイレゾ音源」と、快適な音空間を創出する「空間音響設計」とで、居心地の良い空間を実現。オフィス、図書館、商業施設などに導入されている。"

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