企業取材

社会課題を感性デザインで考える。ビクターエンタテインメントの「KooNe」事業とは?

オフラボでは、企業や団体が行っているストレス対策事例を紹介しています。今回登場するのは、(株)JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント エンタテインメント・ラボ。2013年に販売をスタートした、超高音質なハイレゾ音源でストレスオフ空間を演出する「KooNe(クーネ)」事業について取材しました。

■音のスペシャリストが挑む新たな空間音響ソリューション事業

さまざまなコンテンツを提供し、世の中に音の楽しさを伝えてきた(株)JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント(以下ビクター)が2013年に開始した新事業、それがエンタテインメント・ラボが手掛ける「KooNe(クーネ)」。その名の通り“空間”を“音”で設計するという音のスペシャリストならではの空間音響サービスです。これだけ聞くと「BGMとどう違うの?」そう思うかもしれません。

BGMは主に商業施設で演出として使われます。美容院やデパート、レストランなどで、音楽で雰囲気を作るのが目的です。一方「KooNe」がかなえるのは、心拍数・自律神経機能の「リラックス」や「コミュニケーションの活性化」など、音によるストレスオフの効果。導入場所も、商業施設に限らず、オフィスのワークスペースや会議室、医療機関、公共施設まで多岐に渡ります。

■自然音に含まれる“ある成分”をハイレゾ技術で再現

まず「KooNe」は、流す音源が通常のBGMとは異なります。着目したのは、人類が誕生したときから地球上に存在している「自然界の音」。人工物に囲まれた都市空間に自然が少ないことは、誰しもがうなずく事実でしょう。元来自然と共に生きてきた人類にとって、決して好ましいことではありません。そんな現代の環境を自然音で向上させるため、「KooNe」がこだわったのが音の“豊かさ”です。

木々の葉の擦れる音、鳥のさえずりなど。自然界に存在している音をCD化したものは多数存在しますが、実は本当は存在しているはずの“ある成分”が失われています。非可聴領域とされる20kHz以上の音です。耳には聴こえないとされているため一般的な音楽CDは収録の上限が20kHz程度とされていますが、近年の研究で、非可聴領域でも人は音を感じていることがわかってきました。そして、20kHz以上の音は心拍数や自律神経機能に影響し、リラックス効果をもたらすことで今注目を集めています。

【関連記事】川のせせらぎ、鳥のさえずり。「自然の音に癒やされる」の“隠れた”理由とは?

「KooNe」が配信する自然音では、ビクターの技術開発力により、20kHzを超える音を再現しています。ハイレゾリューションと呼ばれる超高音質・広帯域の音のきめ細かさは、通常のCDの約500倍。また元となる原音は、屋久島、白神山地、奥秩父など、季節が変わるごとに日本全国の美しい音を録音チームが探し求めているそう。超高感度マイクを使うため、ちょっとした雑音も拾ってしまうので、クオリティの高い音が録れるまで時間をかけて何度もトライするのだとか。

■聴かせる音ではなく、感じる音。空気のように包み込む環境を作り出す

もう一つの「KooNe」の特長が、独自開発のオーディオシステムです。スペースの広さに応じた個数の小型スピーカーを、天井と床に設置。例えば川のせせらぎは下から、鳥のさえずりは上から流れ、また天井や壁への反射させることで音に包まれているような感覚に。間接照明の、あの柔らかい発光のイメージですね。傾聴するのではなく、自然の中を歩いている時と同じように音を“感じる”環境を作り出しているのです。

■導入事例① TRC八千代中央図書館

千葉県・TRC八千代中央図書館では、2015年から1階の閲覧スペース「川の読書席」に「KooNe」を導入しています。こだわったのが、居心地のよさ。傍を流れる新川を眺め、「KooNe」による鳥のさえずりや川のせせらぎの音に包まれながら読書や学習ができます。他にアロマが香るスペースもあるそう。

2016年3月、TRC八千代図書館では「KooNe」のストレスオフ効果を検証すべく、WINフロンティア株式会社の「Lifescore Quick」を使って<ストレス・リラックス度(自律神経のバランス)><ココロの柔軟性>の指標を測定する実験が行われました(対象:10~60代の男女30名)。その結果<ストレス・リラックス度>は、「KooNe」の試聴で、男女ともに交感神経と副交感神経のバランスが1:1に近づき、理想的な自律神経バランスに。<ココロの柔軟性>は「バランスが良い」状態をキープしつつ、「ココロの柔軟性」が高くなる(オープンになる)傾向に。総合的に見ても、「KooNe」の試聴で「ココロのバランス」の理想(準理想)状態が、持続的にキープされる傾向となりました。

■導入事例② 3×3Lab Future

「3×3 Lab Future」は、大手町・丸の内・有楽町エリア内の企業との協力関係をもとに、2007年5月に設立されたエコッツェリア協会が運営するサードプレイス。さまざまな機能を持ったスペースがありますが、今年3月、「コミュニティーゾーン」に「KooNe」を導入。新しいアイデアの創造や活発なコミュニケーションに役立てられています。

この他にも、クリニックでは患者の緊張感が緩和されカウンセリングを受けやすくなったり。ユニークなところでは、カーディーラーのショウルーム。「KooNe」があることでリラックスした空間が生まれ、互いにいい商談ができるという声が届いているそうです。

【関連記事】不快な音を“音”で包み込む?聴覚空間作りのストレスオフなアイデア

■空間を五感で整える。専門分野5社によりKANSEI Projects Committee始動

「KooNe」事業が発端となり、2013年には香りマーケティング会社のAir Aroma Japan(株)及びビクターが中心となって一般社団法人「KANSEI Projects Committee(カンセイ・プロジェクト・コミッティ)」が設立されました。聴覚や嗅覚からなる「五感」と、人間・時間・空間の「3つの間(ま)」の関連を研究・分析し、居心地のいい空間を創造するプロジェクトです。

広島国際大学感性デザイン学教育研究室の吉長成恭教授を理事長に、五感に関係のある5社が参加。専門分野ならではノウハウを持ち寄り、働き方を変える生産性・効率の向上や現代で希薄になりがちなコミュニケーションの活性化、そしてストレスなどの社会問題を感性から考える活動を行っていますが、特徴的なのは、自律神経の測定などで「空間の質」を見える化している点。オフラボでも、今後の活動に注目していきます。

取材・執筆:オフラボ 監修:JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント エンタテインメント・ラボ