「熱が下がらない」風邪薬が効かない長引く熱、ストレスが原因かも知れません【ストレス性発熱の処方箋①】

※新型コロナウィルスが日本でも猛威をふるっています。ストレスオフラボでは2018年11月29日にストレスによる発熱に関する記事を公開しましたが、加えて、風邪やインフルエンザを含むウィルス性の発熱の機序についても触れました。ぜひ参考にしてください。(2020年2月14日追記)

「何だか頭がぼーっとする」「だるくて動きたくない」「風邪薬を飲んでいるのに効かない」……熱があり、不快な症状が続くのに、病院で検査を受けても原因がわからない。そんな原因不明の発熱の約2割が、ストレスによる心因性発熱、言わば「ストレス性発熱」であるといわれています。この連載では、日本はもちろん、海外からも治療を求めて患者がやってくる心因性発熱研究の第一人者、国際医療福祉大学病院の心療内科部長・岡孝和先生にお話をうかがいます。

■発熱のメカニズムの解明が進んだのは、意外にも近年のこと

ウィルスが侵入してきたり、あるいは体内で何かしらの異常が起こったりすると、防御反応として“発熱”します。このように発熱は大切な生体防御反応の一つですが、そのメカニズムは近年までわかっていませんでした。そんな発熱研究の歴史が大きく動いたのは、ごく最近の1990年代に入ってからのこと。それまでに「プロスタグランジンE2」という物質が発熱に大きく関わっていることはわかっていましたが、ウィルスなどの外敵を感知して発動するメッセンジャー物質「サイトカイン」との関連があきらかになったことで、この2つの物質が関与しない、ストレスが原因になる発熱があることがわかったのです。

■ストレス性発熱のメカニズム

岡先生によると、「『熱っぽいのに風邪薬がどうもきかない』そんな状態が長引き、診療科をいくつもはしごして、私のところに辿り着く方が多くいます」。問診・診察してみると、心因性、つまりストレスがその原因になっていることがあるのだとか。ストレスによる体調の変化と言えば食欲不振や疲労感などが代表的で、発熱はちょっとピンとこないかもしれません。しかし原因不明の熱の2割程度は「心因性発熱」と言われています。
発熱にはプロスタグランジンE2とサイトカインが関わっていることを、先ほどお話ししました。しかしこれは、あくまでも細菌やウィルスによる体温上昇の話。風邪薬はプロスタグランジンE2の産生を抑えることで症状を緩和・鎮静化しますが、心因性発熱はストレスが原因のため効果が見られず、風邪薬が効かない“原因不明の熱”であるとされてしまうのです。

では、なぜストレスで発熱するのでしょう。
脂肪細胞には、皮下脂肪や内臓脂肪などの「白色脂肪細胞」と、脂肪を分解して熱を発生させる「褐色脂肪細胞」があります。褐色脂肪細胞は寒い時に活性化し体温を一定に保つために重要な働きを演じていますが、寒冷という環境ストレスだけではなく、心理的ストレスによって交感神経が亢進することでも、褐色脂肪細胞の熱産生が上昇します。これが心因性発熱に大きく関与していると考えられています。

風邪熱と心因性発熱の違い

出典:小学保健ニュースNo.1016付録「かぜをひいたときの発熱と心因性発熱(ストレス性高温)の違い」少年写真新聞社より一部改変。

「ストレスでかっとなる」よく使われる表現ですね。これは例えではなく実際に体内で体温上昇が起こっているわけで、一過性のことなら問題はありません。しかし慢性的にストレスにさらされ続けたり、強いストレスを何度も繰り返し受けると、体の適応力が過度に高まって発熱しやすくなります。ちょっとしたストレスでも体温が上がり、それが常態化する=常に微熱や高熱状態にあり、不調に陥る。これが心因性発熱です。

■危機や緊張を感じたら体温が上がるのは、体の当然の機能

寒さを感じたら、凍え死なないよう体温を上げようとする。危険が迫ったら、やはり体温を上げてそこから逃れようとする。危機や緊張状態で体温が上昇するのは、ヒトだけでなく動物に当然備わっている機能であり、これをホメオスタシス(生体恒常性)と言います。

例に挙げたような生死に関わる状況でなくても、例えば気合の入るプレゼン前など興奮をともなうようなシーンでは、実は0.2~0.3℃程度は体温は上がっているもの。健康な人でも、1日の中で体温は思いのほか変動しているわけです。ですからあまり過敏になる必要はありませんが、微熱・高熱が長引き「どうやら風邪ではない」ときには、ストレス性発熱の可能性があるかもしれません。「職場での人間関係に悩まされ続けている」など思い当たることがある場合は、逃れることができるのであれば、そんな状況を回避する。そうでなければ、ストレスオフする方法を模索したり、誰かに相談したり、ストレスとの付き合い方を見直して改善策を探る必要があるでしょう。

ただ、ストレス性発熱と診断するためには自己診断は禁物で、重大な病気が隠れていないか、まず病院で検査を受けることが大切です。また、症状が重くなれば医師の診断や投薬も必要です。しかしストレス性発熱の改善には、まずは環境や思考を変えるなど、少しずつでも毎日できる工夫を実践することが大切。次回、具体的に解説します。

取材・執筆:オフラボSTAFF 監修:岡孝和

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岡孝和

岡孝和Takakazu Oka

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国際医療福祉大学病院 心療内科部長・医学博士
産業医科大学神経内科講師、九州大学大学院医学研究院心身医学准教授を経て、2017年より現職及び国際医療福祉大学医学部心療内科学主任教授。日本心療内科学会、日本東洋医学会、日本疲労学会会員。ストレスが原因となる「心因性発熱」の臨床・研究における第一人者。治療を求め、日本全国、世界各地から患者が訪れる。

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