帰宅前の10分間を習慣に!「点つなぎ」で脳をスイッチしよう

数字やアルファベットを学べ、手先を使うことで器用さを養い、そして集中力や想像力も。完成できれば自信にもつながる幼児の遊び「点つなぎ」が、大人のストレスオフにも役立つことをご存知ですか? スマホの対戦ゲームやクロスワードパズルにはない、“ならでは”のその効果を、『自律神経を整える点つなぎ』(学研)を監修する脳科学者の有田秀穂先生にうかがいました。

■大人の「点つなぎ」で疲れた脳をストレスオフ

数字やアルファベットを順番に追いかけて、線で繋いでいくだけ。なんとも単純な遊びが「点つなぎ」です。小さなお子さんのいる方なら、幼児向けの本の付録でなじみがあるのではないでしょうか。子ども向けは点の数も少なく、でき上がる絵柄もシンプルなもの。ですが、西洋絵画だったり、風景だったり、複雑で精緻な点つなぎが、ストレスを抱えている大人や高齢者、あるいは体を動かすことのできない人のストレスオフに効果がありそうだということで今注目が集まっています。

▼数字から数字へリズムよく線を引き自律神経を整える
1、2、3……と追いかけて線で繋いでいく点つなぎは、線を引く、ペンを止める、また線を引くといった具合に、腕や指先を使った立派なリズム運動です。ウォーキングやスクワットなどもおすすめですが、点つなぎは運動が苦手な人、運動が困難な人でもできるのもポイント。自律神経のバランスを整えます。

▼仕事やスマホで働き過ぎの脳を、省エネモードに
働き方・休み方が議論され、過労が問題になっている現代ですが、それは体力だけの問題ではありません。思っている以上に、“脳の過労”も実は深刻です。仕事や勉強、スマホ、PC、テレビ……それらの情報処理の大半は、言語や記憶をつかさどる左脳が担っており、今の私たちは左脳を酷使する生活を送っていることに異議を唱える人はいないでしょう。

点つなぎが素晴らしいのは「遊びに集中することで脳は覚醒していながらも、左脳が働く要素はほとんどない」ところです。左脳を休めればいいなら、ぼーっとすればいいのでは? そう考える人もいるでしょう。ですが、まったく何も考えない放心の状態というのは、漠然と将来が心配になるなど、人の心を不安定にします。また、点つなぎでなくても単純な遊びならいいのでは? これも考えそうなことですが、例えばクロスワードパズルは「言葉」の遊びですし、トランプの神経衰弱は「記憶」が勝負と、左脳を使わない点つなぎのような遊びは意外と見当たらないのです。

▼ゲーム感覚ながら勝ち負けのない、心地いい達成感
三大神経伝達物質の一つであるドーパミンは「××したい」「△△が欲しい」といった欲求をつかさどります。満たされると、やる気が出たりポジティブな気持ちになれますが、例えばギャンブルでお金を失ったり、スマホの対戦ゲームで負けたりすると、ストレスになり、依存症的な症状に陥ることもあります。点つなぎは、そういった「勝ち負け」なく達成感が得られる遊びです。線を引くごとに徐々に絵柄が見えてきて、完成したあかつきには、心地いい充足をもたらします。

■帰宅前に10分間。脳をリラックスモードに切り替えよう

作業の合間や就寝前など、点つなぎはいつでも好きな時に行うことができる気軽さが魅力ですが、何といってもおすすめは「帰宅前」です。頭がフル回転のままだと、帰りの電車に乗ってもやり残した仕事のことを考えてしまったり、就寝時にも明日の予定が気になって寝付けなかったり。だから職場や学校でクールダウンして、働き過ぎの脳を引きずらないことが大切です。朝浴びる太陽光で分泌が促される、ストレスオフに有効な脳内物質のセロトニンの働きは、日が落ちる夕方から急激に弱まりますから、そういった意味でも帰宅時間がちょうどいいのです。

液晶画面や蛍光灯が発するブルーライトは、眠りに重要なメラトニンを減少させるので、「PCの電源を落としたら、点つなぎ」のような習慣になるのが理想的です。もしあなたが職場やグループの長の立場にあるならば、声かけをして、みんなで実践してみてはいかがでしょうか。

取材・執筆:オフラボSTAFF 監修:有田秀穂

有田秀穂

東邦大学名誉教授・医学博士
東邦大学医学部総合生理学で、坐禅とセロトニン神経・前頭前野について研究。各界から注目を集めるセロトニン研究の第一人者。メンタルヘルスケアをマネジメントする「セロトニンDojo」代表。オフラボ顧問。著書『脳からストレスをスッキリ消す事典』(PHPビジュアル実用BOOKS)他多数。

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