「右のポッケにゃ夢がある、左のポッケにゃチューインガム」と、昭和の大スター、美空ひばりも歌ったように。甘いものが少なかった戦後の日本において、未来ある子どもたちがひと際目を輝かせるお菓子だったのが、ガム。そんな新しい時代の象徴を、おいしさと噛みごこちにこだわって世の中に広めたのが1948年創業の株式会社ロッテです。
■時代のニーズをいち早くキャッチ。2015年には「噛むこと研究室」を発足
マナー対策、運転や仕事中のリフレッシュメントなど、株式会社ロッテ(以下、ロッテ)では時代のニーズに合ったさまざまな商品を開発してきました。
近年は“噛むこと”の新たな可能性に注目し「噛むこと研究室」を中心に研究・啓発を行っていますが、このプロジェクトが始まった背景には、2000年代に入ってからの“噛むこと”による健康効果への注目や、世界中で論文の発表が盛んになり始めたことが挙げられます。ロッテは、実はそれ以前から噛むことの研究に注力してきたパイオニア的存在。より一層、噛むこと効果を世の中に広めるべく、研究開発、マーケティングに加え、広報や宣伝などの担当者も集結し、満を持してスタートしたのが「噛むこと研究室」なのです。その活動を紹介する「噛むこと研究室」のウェブサイトでは、噛むことの機能はもちろん、食事の仕方やマウスエクササイズの方法なども。毎日に役立つさまざまな情報を発信しています。
■“歩く”+“噛む”で通勤をスポーツにする「通勤ジム」がスタート
ロッテでは、「噛むこと研究室」を中心に、さまざまな企業や団体と共に日々噛むことの健康効果を研究・検証しています。現在も10以上のプロジェクトが進行していますが、その内の一つが、この春、スポーツ用品メーカーのアシックスジャパン株式会社と共同でスタートした「通勤ジム」。出勤前や仕事帰りにスポーツジムで汗を流すだけでなく、通勤の“歩く”を“噛む”でもっとスポーツにしようというこの取り組みは、2017年にスタートした早稲田大学スポーツ科学学術院の宮下政司准教授との共同研究の結果から生まれました。
試験は、27~58歳の男女15名にガムを噛みながら/ガムを噛まないで(タブレット摂取)、各自のペース・歩き方で、呼気ガス(カロリー消費の計算のため)を測定しながらそれぞれ15分歩いてもらうというものです。この結果、ガムを噛みながらの歩行で歩行速度が増加し、カロリー消費や脂肪消費量も増加することも確認されました。ウォーキングなど一定のリズムで行う運動時には、心拍のリズムが運動リズムと同期することが知られています。この試験でも心拍数の増加が見られたことで、歩行速度が増加した要因の一つとして考えられました[1]。
テンポのいい音楽を聴きながら歩くと、そのリズムに自然と歩きが合ってくるという経験はありませんか? ガム噛みで刻む一定のリズムは、例えるなら、メトロノームのようなものなのかもしれません。
男女の歩行速度、脂肪・カロリー消費量の変化
出典:Kanno et al. The Journal of Physical Therapy Science, 31(5): 435-439(2019)の表を図に改変
■噛むことで日本人の健康に貢献
仕事や勉強中の集中力を高めたり、またストレスオフ物質であるセロトニンの分泌を促したり、うつ病に対する噛むことの健康効果もすでに実証されている昨今。ロッテの社内では、仕事中のガム噛みは推奨される行動の一つですが、マナーを重んじる日本社会において、特に企業内でのガム噛みはまだまだハードルが高いと言えるでしょう。また、グミやミントタブレット、スマホなど“休憩時間のお供”のライバルも増えました。しかし、ルールも価値観も、時代の変化とともに変えていくもの。そのイノベーションマインドで“噛むこと”の価値をさらに世に広め、人生の豊かさに貢献するロッテの挑戦はまだまだ続きます。
参考:[1]Kanno S, Shimo K, Ando T, Hamada Y, Miyashita M, Osawa K. Gum chewing while walking increases fat oxidation and energy expenditure. Journal of Physical Therapy Science. 2019;31(5):435-439
取材・執筆:オフラボ 取材・執筆協力:ロッテ