うれし泣き、悔し泣き、悲しい涙、感謝の涙。私たちは一生の中でさまざまな涙を流しますが、近年ストレスオフの効果が期待されているのが、心を開放して思いっきり号泣する“涙活”。涙のメカニズムやヒトの一生と涙の関係、そして涙活の効果について、東邦大学名誉教授・医学博士の有田秀穂先生にうかがいました。
■ヒトが涙を流すメカニズム
ヒトが涙を流すメカニズム、それは自律神経が調節しており3つの種類の涙があります。
ひとつ目は、眼球表面を潤し、持続的に分泌されている「基礎分泌の涙」。これはドライアイとも関連があります。二つ目は「反応性の涙」です。目にゴミが入ったり、タマネギを切ったりして刺激を受けると流れる、一種の防御反射です。
そして第三の涙が、喜怒哀楽など心を揺さぶられる経験で共感脳が激しく興奮したときに流れる「情動の涙」。うれし泣きも悲しい涙も、ヒトが一生の中で経験する号泣のすべてが「情動の涙」なのです。
■さまざまな涙を経験して大人になる
まるで生のエネルギーを爆発させるように、ヒトは大きな泣き声を上げながら生まれてきます。
新生児は涙を流さず声だけとされますが、1歳頃になると涙を流して泣くようになります。お腹が空いたり、おむつが濡れた不快感であったり、ぶつけた痛さであったり。親との非言語コミュニケーションとしての役割を担っています。
言葉が話せるようになると赤ん坊の涙は抑制されるようになりますが、さらに大きくなると「かけっこに負けた」「友だちとケンカした」など、今度は自尊心が傷つけられたり怒りを伴う悔し涙、あるいはうれし涙を覚え……一生の中でさまざまな涙を経験しますが、成長するにつれて、たとえそれが印象の悪い涙でないにしても社会的に抑制されるようになります。そこで現れる涙が、感動の涙です。
■共感して流す感動の涙がストレスオフに効果的
スポーツの名場面に胸を熱くし、映画やドラマに感動して流す涙は、他者に対する「共感」がベースになっています。“共感脳”という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、これは脳の内側前頭前野をさし、意欲、集中、そして共感など、人同士が関わりながら生活する上で重要な社会的機能を司る領域です。
一般的に、ストレス状態というのは緊張を伴う交感神経からリラックス状態をもたらす副交感神経へのスイッチングができていない状態です。しかし、共感脳が興奮するとその信号が脳幹に伝達され、覚醒状態にありながらも、交感神経から副交感神経へのスイッチングが行われます。安静や睡眠などのリラックス行動で交感神経の緊張状態を緩める方法は、いわば消極的なストレス緩和。号泣はむしろ激しい情動行動でリラックスとは逆ですが、にもかかわらず号泣すると不思議と気持ちが落ち着いたり、爽快な気分になります。号泣という激しい行動を示しながらも、積極的に副交感神経を優位な状態にする。これこそが、涙活がストレスオフにおすすめの理由なのです。
ところで、先ほどお話したように、感動の涙は、大人の涙。なぜでしょうか? 共感というのは自己の中に無意識に蓄積した記憶と共振すること、琴線に触れること。たくさんの「経験」こそが、「共感」の源なのです。共感脳というのは長い人生の中で発達します。子どもは人生経験が短いため、共感脳も未熟です。だから、他者への共感で流す感動の涙は、成熟の証。時には思いっきり号泣してみませんか?
取材・執筆:オフラボSTAFF 監修:有田秀穂