その体温上昇、「温活」?それとも「発熱」?

今年も秋冬シーズンが到来。冷えが気になる季節になると「温活」をはじめる人が増えますよね。もちろん手足の冷たさは不快なものですが、なぜ低体温はよくないのでしょう。またそもそも、「平熱を上げる」と「発熱」の違いって? 素朴な疑問を、国際医療福祉大学病院の心療内科部長・岡孝和先生にうかがいました。

■温活で36~37℃を目指す理由

一般的に36℃以下が低体温と言われますが、果たして「温活」で何度を目指すべきなのか? やみくもに体温を上げればいいというわけではありません。目指すべき目安は、は36~37℃です。その理由は、ヒトが生きる上で重要な「免疫」にあります。ウィルスなどの外的から体を守るために、免疫は大きな役割を果たしています。その活動を担う細胞を活性化する、酵素が働くピークが36~37℃。温熱生理学であきらかになっています。

■風邪による発熱のメカニズム

それでは、「発熱」はどうでしょうか。日本の感染症法は、目安として37.5℃以上を「発熱」、38℃以上を「高熱」と定めています。発熱、あるいは高熱の症状を生じる原因には実にさまざまなものがありますが、もっとも身近なのは、特にこれからの季節に気をつけたい「風邪」でしょう。

ご存知の通り、風邪はウィルスや細菌が原因で起こります。病原体が体内に侵入すると、“外敵”を感知した体内では、免疫機能が発動。まず白血球の一種であるマクロファージが迎え撃ち、メッセンジャー物質であるサイトカインを放出して戦闘態勢に入ります。この「サイトカイン」こそが、発熱の鍵を握る物質。病原体を撃退する「発熱せよ」という指令を出すため、血液に乗って脳の視床下部を目指します。しかし途中で待ち受けているのが、血液脳関門というゲートです。サイトカインは通り抜けることができないため、発熱の仲介をするプロスタグランジンE2の産生を促しバトンタッチ。プロスタグランジンE2から情報を受け取った視床下部の体温調節中枢は、熱を上げるための指令を体の各所に出し、体から熱が逃げるのを抑える活動や、熱産生を高める活動を促すのです。これが風邪による発熱のメカニズムです。

■まずは平熱を知ることから

「自分の平熱が何度なのかわからない」という人、意外と多いのではないでしょうか。先ほど、感染症法では37.5℃以上を発熱と定義していると書きましたが、一概に言えるものではありません。実は健康な人でも、1日の中で体温は結構、変動しています。重要なのは、人それぞれの平熱との変動幅で見ること。理想的な36~37℃の範囲内の人でも、「平熱36℃」の人と「平熱37℃」の人では、実に1℃の違いがあるわけですから、37.5℃といってもつらさに違いが出てきます。

「体温は健康の物差し」と言われます。また別の回でご紹介しますが、ストレスで発熱する「心因性発熱」も存在するため、「ストレス性疲労の物差し」であるとも言えます。体重を計ったり、肌の調子をチェックするように。体温の変化に気を配ることで、健康に新たな気づきがあるかもしれません。

取材・執筆:オフラボSTAFF 監修:岡孝和

岡孝和

岡孝和Takakazu Oka

記事一覧

国際医療福祉大学病院 心療内科部長・医学博士
産業医科大学神経内科講師、九州大学大学院医学研究院心身医学准教授を経て、2017年より現職及び国際医療福祉大学医学部心療内科学主任教授。日本心療内科学会、日本東洋医学会、日本疲労学会会員。ストレスが原因となる「心因性発熱」の臨床・研究における第一人者。治療を求め、日本全国、世界各地から患者が訪れる。

関連記事