感動か、儀礼か?拍手の内側の感情を解き明かす【ロボット×ストレスオフな未来②】

心理学で使われる定番モデル「ラッセルの円環モデル」と自律神経×脳波を組み合わせ、目に見えない「感情」を計測・数値化しようという研究を行っている芝浦工業大学情報工学科の菅谷みどり先生。連載の第1回では概要についてうかがいましたが、今回は、その手法を用いて行った実験のお話。エンタテインメントショーの舞台を観て拍手喝采!の、観客たちの内側にある感情に迫ります。

■心理学×自律神経×脳波で深層心理にある感情が明らかに

誰かに贈り物をした時、食事に誘った時など「喜んでくれているみたいだけれど、実際は?」、気になることはありませんか? おそらく、プロとして舞台に上がる人はなおのこと。面白くても笑わなかったり、拍手をしなかったり。逆に面白くなくても、とりあえず拍手をする人もいるでしょう。しかし本心がわかれば、それによって次に向けてショーの構成を変えたり、また新たな演目を作る時の参考にすることもできます。そこで私たちのチームでは、第1回でお話しした感情分析の手法を用い、ショーを観た時の感情を生体情報から解析する実験を行いました。

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■ジャグリングショーを観た感想は「楽しい」と「眠い」が同居

実験協力者は、芝浦工大の男子学生5名。脳波計と心拍計を装着して、3分間の安静を挟みながら、「ジャグリングショー」を観てもらいました。この時、ボールの回転が単調な “セクション1”と、大技に取り組む“セクション3”について、感情を評価した結果が以下のグラフになります。

実験結果

アンケート形式の「主観評価」は、自分の“考え(認知)”というフィルタを通して表出した感情です。これに対し「生体情報評価」は、認知のフィルタを通さず、脳波と自律神経の状態から判定された無意識の感情です。まず、主観評価結果を観てみましょう。単調な“セクション1”は、AさんもBさんも「退屈」。大技が繰り出された“セクション3”は、「興奮」「楽しい」とのこと。技の難易度に対応している結果となりました。

これに対して生体情報評価では、もっと複雑な結果がわかりました。主観評価では「退屈」のみだったAさんの感情は、「眠気」や「不愉快」といった複数の負の感情が発生しています。また大技がある“セクション3”は、主観評価では「興奮」でしたが、生体情報評価では「楽しい」という“覚醒”と“快適”の感情が評価されています。開演から時間が経過しているためか「落ち着き」「眠気」も見受けられます。

Bさんも、単調な“セクション1”は「退屈」が高く、生体情報では「眠気」に加え「驚き」「興奮」なども伴っています。“セクション3”は、“覚醒”度が高い「楽しい」が非常に高い一方で、「眠気」「落ち着き」といった快方向の感情も見られます。

この実験により、本人の自己申告である感情と、覚醒、眠気、リラックスなどの状態で表される生体情報の感情はほぼ一緒で、かつ生体情報の方がより詳細に感情を分析できることがわかりました[1,2]。

■人間×ロボットのコミュニケーションに応用

私たちのチームでは、このように生体情報を用いた感情解析手法を基にして、さまざまなコミュニケーションの研究を行っています。そのうちのひとつが、「人間×ロボット」のコミュニケーションに応用する研究です。ひと昔前まではSFの世界の空想だったロボットがリアルになり、どんどん身近な存在になっている現代。人間とロボットの心が通い合うようにコミュニケーションするためには、ロボットが人間の気持ちを理解し両者の信頼関係を構築することが欠かせませんが、ヒトの感情が分析できれば、そんなロボットの開発が可能なのではないかと考えられています。この話は、また次回。

【参考文献】
[1] Midori Sugaya, Takuya Hiramatsu, Reiji Yoshida, Feng Chen, Preliminary Stage Reaction Analysis of Audience with Bio-Emotion Estimation Method. The 1st IEEE International Workshop on Emotion and Affective Computing Interfaces and Systems(EACIS2018) on the 42nd IEEE International Conference on Computers, Software & Applications, Staying Smarter in a Smartening World (COMPSAC 2018), July 23-27. pp.601-605.
[2]平松拓也,池田悠平,保科篤志,菅谷みどり, ステージ評価に向けた生体情報による感情推定, 電気学会, 光・量子デバイス研究会, 医療工学応用一般, 4月21日, 2017年.

執筆・監修:菅谷みどり

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菅谷みどり

芝浦工業大学 工学部 情報工学科 教授
2018年度より、芝浦工業大学工学部情報工学科教授。情報処理学会,電気電子通信学会,ACM, IEEE会員。「人と共生する新しいロボットとそのソフトウエアの実現」をテーマに、情報工学的な視点で人間の「感情」に迫る研究や、複数台ロボットや双方向ロボットのコミュニケーションの基盤システム研究を行っている。

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